Interview

起承転結じゃ物足りない
話を二転三転させるのが面白い

児童文学作家 角野栄子

 娘を出産したのが31歳の時。ちょうどその頃、日本は高度経済成長期でした。主人は仕事で多忙でしたし、保育園もほとんどない時代。だから子育てはほぼ一人でしていました。今で言うワンオペ育児ですね(笑)。もちろん愛する我が子と過ごす時間は幸せでしたが、誰にも頼れない状況に不安や孤独を感じることも…。そんな時、何かを書くことで自分の中のモヤモヤを発散できることに気づいたのです。
 心の拠りどころを見つけてからは、仕事と育児を両立できるようになりましたね。やんちゃ盛りであちこち動き回る娘から目が離せないので、画板を首から下げて追いかけながら執筆していました。

 40代に入ってから書き始めた『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズは、今年で43年目に突入。現在もほぼ2年に3冊のペースで新刊を出しています。これはもう、私のライフワークですね。50歳で出版した『魔女の宅急便』も続編を書き続けています。今年で87歳。よく周りから「元気の源は?」と聞かれますが、おそらく好奇心で人一倍強いのでしょう。普段は毎日6時間ぐらい机に向かうのですが、日常でふと浮かんだアイデアを作品に落とし込み、物語の世界を広げていくのが楽しくて。そうそう、料理は作るのも食べるのも大好き。毎日の食事も、元気につながっているのかもしれません。

 読者の大半は小学生前後の子どもたち。つまりピュアで正直な心をもった方々です。ですので、こちらも毎回真剣勝負です!私自身が本当に面白いと思わなければ、相手もきっと同じ印象を抱くでしょう。抽象的な言葉はあまり使わず、情景がぽんと浮かぶ言葉を一語一語えらびながら、物語をつづっていきます。起承転結と、話がきれいにまとまるとなんだか物足りないので、びっくりしたり、ちょっと引っかかったり、想定外の展開で話を二転三転させていくのが私のスタイルです。もちろん、こうして長年作品を作っていられるのは、世代を越えて読み継いでくださっている読者の方々のおかげです。
 私も子育て中は、娘にたくさんの絵本を読み聞かせしてきました。でも、お子さんが字が読めるようになったら、ぜひ本人に読書をすすめてみてください。自分の力で読むことで自信がつき、物語の情景や音、匂いまで想像できるようになります。感受性が豊かになり、自分なりの言葉も身につけることができるでしょう。読書の力は偉大です。

©角野栄子オフィス

鎌倉にお住まいの角野さん。自宅から歩いて10分ほどの海岸には、散歩がてらたびたび訪れる。「昔から海が大好き。波の音を聞いているとリフレッシュできます」

©角野栄子オフィス

朝食後、新聞を読んでコーヒーを飲み、ベランダで朝日を浴びてからデスクに向かうのが毎日のルーティーン。書斎の壁には、角野さんが自ら書いた可愛らしいイラストが。

最新著書

おばけのアッチ 赤ちゃんはドドン!

おばけのアッチ
あかちゃんはドドン!
角野栄子 作/佐々木洋子 絵
ポプラ社 1,210円(税込)

ケケと半分魔女 魔女の宅急便 特別編その3

ケケと半分魔女
魔女の宅急便 特別編その3
角野栄子 作/佐竹美保 絵
福音館書店 1,650円(税込)

絵本作家

角野栄子

かどの えいこ


©角野栄子オフィス

東京生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒業。ブラジルでの体験をもとにした『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』(ポプラ社)でデビュー。『スパゲッティがたべたいよう』に始まる「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけシリーズ」などロングセラーは数多く、自選童話集「角野栄子のちいさなどうわたち・全6巻」『魔女からの手紙』『ちいさな魔女からの手紙』(以上ポプラ社)、『ラスト ラン』『ナーダという名の少女』『トンネルの森1945』(以上KADOKAWA)など多数の作品がある。

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