Column

読み聞かせが、おしえてくれたこと

 休みの夜、親が絵本を読み聞かせてくれる時間は、特別なひとときでした。お気に入りは『桃太郎』。桃が流れてくる場面になると、話を聞いている私と妹もこの時ばかりは一緒になって 「どんぶらこ」を声に出します。ときにゆっくり、
ときにリズミカルに。それが楽しくて、楽しくて、何度もねだって読んでもらいました。

 小学生になり、友達の家で『桃太郎』の絵本を手に取った私は、驚きの事実を知ります。なんと、彼女の絵本では「どんぶらこ」が「つんぶくかんぶく」だったのです。そこで調べてみると、ほかにも「ぶっかんぶっかん」「どんぶらこっこすっこっこ」など、実にさまざま。表現とはこんなにもゆたかで楽しいものなのか。この体験が新たな感動をもたらしてくれました。そして、不思議に思ったことを自分で確かめる、調べることの面白さにもこのときに出会ったように思います。

 読み聞かせは、いろいろなことをおしえてくれまし。本の面白さはもちろん、仲良くすることのうれしさ、他人を認めることの大切さ、そしてどうにもならない悲しみや理不尽さも…。なにより、忙しい両親がつくる読み聞かせという貴重な時間そのものが、自分は愛される存在であることを実感させてくれました。そのときはばく然とした理解でも、それはしっかりと根づき、成長の過程で何度も役に立ってくれました。大人になったいまも、私の心の原点は、読み聞かせてもらったあのひとときであるように思えます。

ももたろう

ももたろう 松谷みよ子 文/和歌山静子 絵
童心社

画本 風の又三郎

画本 風の又三郎 藤城清治 影絵/宮沢賢治 原作
講談社

蜘蛛の糸

蜘蛛の糸 芥川龍之介 作/遠山繁年 絵
偕成社

おおきなかぜのよる

おおきなかぜのよる 阿部結 著
ポプラ社

はだかのおうさま

はだかのおうさま アンデルセン 原作
いもとようこ 文・絵
金の星社

てぶくろ

てぶくろ ウクライナ民話
エウゲーニー・M・ラチョフ 絵
うちだりさこ 訳
福音館書店

text 大石真規子

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