Interview

幼年童話は絵本から児童書への橋渡し
読書へと自立する第一歩

作家角野栄子

幼年童話『アッチ・コッチ・ソッチの
小さなおばけ』シリーズをライフワークとして、
40年以上新刊を出し続けている角野栄子さんに、
幼年童話の魅力を伺いました。

――幼年童話とは絵本から児童書へ移るあいだに読む短めの物語とされていますが、どのようなものでしょうか。
 読み聞かせでお話を楽しんでいたところから、子どもが自分で「面白い! もっと読みたい!」と本を読むようになる。そこから読書が始まるんですが、その入り口になるのが幼年童話です。だから、その時期の子どもにすごく大事な存在です。
 幼年童話には物語性があることが大切。その題材は、自分の生活のなかにあるものではなく、もっとすっ飛んだものがいいですね。私の場合は読み手に「こんなことあり!?」って言わせたいの。まだ知らない世界に連れて行ってくれる、ワクワクさせてくれる、そういう幼年童話に出会うことが大切です。読書の入り口で面白くないものに出会うと「本って面白くない」と思ってしまう。だから幼年童話は心を吸い取られるように面白くなくちゃいけないんです。

作家 角野栄子(かどの えいこ) 東京生まれ。1959年から2年間ブラジルに滞在。その体験をもとにした『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』でデビュー。『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズ(以上ポプラ社)、『魔女の宅急便』(福音館書店)他、著書多数。5~8歳の子ども向け童話の書き手の発掘を目指す「角野栄子もっとあたらしい童話大賞」(主催・ポプラ社)を2024年に創設した。

――子どもの幼年童話との出会いに対して大人ができることはありますか?
 一緒に本屋さんや図書館に行って、子どもを好きにさせる機会を作ってあげるのがいいですね。大人の指導はいらないんです。まずはどんな本でも自分から手に取って読んでもらうことが大切です。
 あとは、大人が子どもに構いすぎないこと。大人は子どもが家で何もせずにぼんやりしていると不安なのよね(笑)。「そんなボーッとしてないで本を読みなさい」って言ってしまいそうになるけど、強制しない方がいいと思うの。そんな時は、親が本を夢中で読んでいる姿を見せてみる。すると、子どもは気になってその本をそっと開いてみるという体験につながるんです。大人にはそういう子どもに構わない知恵や、子どもの気持ちを自由にしてあげることが必要だと思います。

――子どもが本と出会う時、自由に選ばせることはなぜ大切なのでしょうか。
 自由じゃないと何も始まらないんです。読書のいいところは「想像する」ということです。読んでいる間も読み終わったあとも、想像して「何だろう?」と心が動いていく。自由に心が動くことで何かが生まれる。「想像」は、やがて「創造」へと広がっていくんです。
 本を読んで面白ければ、「この続き、どうなるのかな」と自分で想像して新しい物語を作ったり、絵を描いたりする。そうして、楽しかった自分の気持ちが形になっていく。それが「自分を表現したい」という気持ちを育てていくの。そういう筋道を作る要素が、幼年童話にはあります。

『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズは、1979年に『スパゲッティがたべたいよう』でスタート。2026年1月8日に新刊『おばけのソッチ キャン・キャン・キャンディー!』(以上ポプラ社)が発売された。

――5~8歳頃の子どもに最適とされている幼年童話ですが、なぜこの時期なのでしょうか。
 ちょうど読み聞かせから読書へと自立する時期ですからね。それに、最近のこの年頃の子どもたちは“道草”みたいな時間があまりないでしょう? 私の子どもの頃は、そういう時間ばっかりだった。道を歩いて何か見つけたら、しゃがみ込んで「これ何だろう?」と手に取っていろいろ想像したりして。
 その道草みたいな役割が、幼年童話にはあると思うの。「ここまで読んだら飴をなめよう」とか、登場人物に対して「変な人だな」と思ったり、ページをめくるたびに次に何が起きるのかわからない。物語の中には、まるで知らない道を歩いているみたいなワクワクする“きままな散歩道”があるでしょう? 1ページめくって面白いと思えば速度が出てくるし、面白くないと思ったら3ページくらいでやめちゃうでしょ。

――どんな作品を子どもに読ませたらいいのか、悩んでいる大人も多いと思います。
 親が選んじゃダメ!(笑) とにかく子どもに自由に選ばせることが大切です。「こっちがいいわよ」なんて言わないことですね。子どもが面白いと思ったものは大人も面白いけれど、大人が面白いと思ったものは、必ずしも子どもは面白いとは思わないものです。
 そして図書館を利用する場合、本当に子どもが面白いと思って、何回も何回も読むような本があったら、それはぜひ買ってあげてほしいんです。その体験が重なると、その子だけの本当に好きな本が集まった本棚ができてゆく。
 本当に好きな本というのは、大人になるまでに20~30冊くらいだと思うんです。私もたくさん本を持っているけれど、身近に置いておくのはそのくらい。自分の本棚に入らなくなったら入れ替えてみたり。すると、その人の形の本棚ができてくるの。そのくらい大人は子どもの読書というものを自由に考えてあげてほしいですね。

――子どもが幼年童話を読んでいる時、大人はどのような距離感で見守るのがよいのでしょうか。
 子どもが夢中で読んでいる時は、そばに行かない方がいいわね。それに、読み終わって「どう思った?」なんて聞かないこと。大人側はメリットを求めないことが大切だと思います。その代わり、子どもに自由を与えたと思った方がいいですね。
 東京・江戸川区にある私の文学館「魔法の文学館」(p39)には、幼年童話を中心に置いていますが、どの棚でも出会いがあるようにジャンル分けしていないんです。年齢に関係なく、興味のある本をすぐに手に取れる方が、子どもは自由に選べる。大人もあれこれ口を出さずに自分の好きな本を選んで楽しめばいい。そういう姿を見せることで、子どもも自然と本に手を伸ばしていくと思うんです。
 そのなかで出会った一冊が、その子のなかに残って、人生を潤していく。このような本との出会いを大切にしてほしいなと思います。

CLOSE