ノンフィクション作家・石井光太さんに聞いてみた
子どもたちの国語力が低下している!?
今、絵本にできること
作家石井光太
ノンフィクション作家として、さまざまな学校問題と向き合っている石井光太さん。
日本の子どもたちの言葉を奪う現在の社会環境や
絵本の可能性について、語っていただきました。
――石井さんは『ルポ 誰が国語力を殺すのか』で、現代の子どもたちの国語力の低下に警鐘を鳴らされました。
学級崩壊、不登校、いじめ……今、学校で起きている問題と、子どもたちの国語力の低下は大きく関わり合っていると思っています。
例えば、不登校の児童生徒数は年々増えていますが、不登校になった理由を聞くと、「分からない」と回答する子どもが少なからずいると、文部科学省の調査でも明らかになっています。もし子どもたちに国語力があって、自分の状況を理解して、学校に行けない理由をきちんと分析して伝えることができれば、解決の目途も立つわけですね。でも、それができないのです。

――確かにそうです。では、この場合の国語力とはどういったものを指すのでしょうか?
日本で育った子どもが成人するまでに、少なくとも何万というボキャブラリー=語彙を習得することになります。このボキャブラリーをベースにして、情緒力、想像力、論理的思考力という3つの力を合わせたものが国語力と定義しています。
情緒力は自分の気持ち、他人の気持ちを感じる力ですが、語彙がなければ自分の感情を奥深くまで見つめ、表現することができません。同じく想像力も、例えば戦争が起きたらどうなるかと考えたとき、そこに暮らす人がどんなことを思っているのか? 想像したことを表現するのは全部語彙ですからね。
――こういった力が全体的に低下していると?
いいえ、ボキャブラリーの数は今も昔もさほど変わらないと思います。早期教育を行う家庭も増えているので、今の方が増えているケースもあるかもしれません。ただ、ボキャブラリーはあっても、「言葉を上手に使う力」を持っていない子どもが増えていると感じます。例えばショックを受けた時、「がっかりした」という言葉を知っているにも関わらず、「死にたい」といった極端な言葉で表現してしまうんですね。驚いただけなのに反射的に「キモイ」と言ってしまったり。すると、言った方も言われた方も状況を理解できず、トラブルに発展するケースが当然出てくるわけです。
――なぜこういったことが起きるのでしょうか?
今の子どもに圧倒的に足りていないのが、ボキャブラリーをアウトプットするリアルな体験だと思います。友達といろいろな遊びをしたり、喧嘩したり、仲直りしたり。そうやって目の前にいる人と関係を持つこと、次々に起こる問題をクリアすることで、情緒力や想像力、論理的思考力が磨かれて、言葉で上手く表現できるようになるのではないでしょうか。もちろん塾や習い事に通うことで身に付く国語力もあるとは思います。ただ、習い事などの用意されたものは、予期せぬ出来事が起こる可能性ができるだけ排除されていますから。
子ども自身が自由に考えて、行動して、突発的な出来事にも遭遇して、そのなかから感じて言葉にしていくことが大事なのだと思います。
――国語力の低下の原因は、やはりSNSやショート動画、ゲームなどの影響もあるのでしょうか?
インターネットの動画は単純に一人で見るものですからね。誰かと一緒に何かをして、その人の情緒を深く感じたり、その場の空気から発言のタイミングを考えたりするのとは別の話になると思います。ゲームも一方的に用意されたものを受け身でやるわけですから。もちろん学校から疲れて帰って来て、ちょっとリラックスしたいときにはいいと思います。でもゲームをやる時間が増えて、それ以外のリアルな体験が減ってしまうのは問題です。
――国語力を伸ばすために、絵本も活用できますか?
はい。ここで重要なのは、親子で対面で読み聞かせをすること。子どもは安心できる人の声を聞いて、温もりを感じながら絵本の世界に没入することで、お父さんやお母さんとの愛着関係を築いていきますから。まずそこが、子どもが生きる上で大切な土台になります。
また子どもって、同じ本を何度も読みたがりますね。『浦島太郎』なら、何度も読む過程で最初は浦島太郎、次は乙姫様といろいろな登場人物の立場や気持ちを考えて、その過程で異なる立場の人の気持ちを理解しているのではないでしょうか。さらに読み聞かせをしていると、「浦島太郎はごちそうを食べたけど、カメは何を食べるの?」等と、子どもから質問責めにされませんか? この親子の対話こそが重要なのです。対話を通じて、子どもは日頃学校では学ばない新しい言語や概念、感覚を自分の中に取り込んでいくのだと思います。
読み聞かせを楽しむ時間が一日一回でもある家庭とそうでない家庭では、子どもの国語力はものすごく変わっていくでしょう。
――最後に親御さんたちにメッセージをお願いします。
絵本の読み聞かせをしたら頭が良くなるとか、いい大学に入れるとか、能力主義みたいなところで考えてしまうと、絵本の良さって分からなくなると思うんです。もっと気楽に、目の前の我が子と一緒に、本を読む豊かな時間を楽しんでください。

ルポ
誰が国語力を殺すのか
石井光太 著
文春文庫 902円(税込)